こんにちは。
タックルオフ工房の曽根です。
今回はグラスソリッドを使用した船竿の作り方の流れをご紹介したいと思います。
店頭には様々なグラスソリッドブランクがあります。
グラスソリッドを使用する場合、上の写真のようなラメ入りの糸をブランク全体に巻くことが多いです。
これを「総巻処理」といいます。
この総巻用の糸をグラスソリッド全体に巻いてコーティングをかけ、ブランクのベースを作るわけですが、この処理をすると・・・
①ブランクが全体が重くなり張りがなくなる
②見た目が豪華で綺麗
という効果があります。
「重くなってしかも張りがなくなるなんてやらない方がいいんじゃないの?」
と思われるかもしれません。確かに重くなることはマイナス面かもしれませんが、船釣りをするうえで張りをあえてなくすことは、波による船の揺れを吸収する役割があります。
張りが強いと船の揺れを吸収できず、仕掛け(エサ)を大きく跳ね上げてしまうことになります。
これが釣果に大きくつながる場合があるようです。私自身船は酔ってしまう為、その違いを感じるまで沖釣りをしていないのでよくわかりませんが・・・(泣)
一般的にはこのように言われていますが、ほとんどは見た目が良くなるから・・・と思っていただいても構わないと思います。
ただグラス繊維が多く表面が毛羽立っているようなブランク(Bグラスなど)は総巻処理をした方がいいと思います。
表面を触るとグラス繊維が手に刺さるほど荒い為、こうした処理をすることで痛い思いをしなくて済みます。
塗装でもいいですが、綺麗に処理するためにはコンプレッサー・エアガンなどの道具や、ある程度の経験が必要となります。
総巻処理は手間はかかりますが、丁寧にやればだれでもある程度綺麗に処理することができます。
それでは手順の説明を進めます。
ブランクに総巻糸を巻いていきますが、その前にブランクを「白」で塗装します。
白で塗る理由は総巻糸をコーティングすると下地の影響を受けて発色が変わってしまう為です。
特に今回は淡い色を使用するため、下地の色がもろに影響します。
もちろん下地の色を生かして発色させる場合もありますので必ず白で塗る必要はありませんが、糸本来の色を少しでも生かしたいということであれば塗装するようにしてください。
こちらではウレタンの白をガン吹きして塗装していますが、筆塗りでも構いません。
多少ムラになってもいいですが、明らかに下地の色が残っているとコーティングをかけた時にそこだけ色が変わってしまいますので注意してください。
またラッカー系の缶スプレー等は使用しない方がいいです。コーティングをかけた時にそれに入っている溶剤に反応して溶けだしてしまいます。
必ず2液式ウレタン塗料を使用することをお勧めします。
総巻は上(ティップ側)から巻いていくのが基本です。
今回の竿はベースがパールホワイト系の糸を巻いていますが、途中に水色の糸を入れながら巻いています。
この部分にガイドを乗せるようになります。
その為のベースとなるのがこの水色の部分になります。
これはあらかじめガイドの取り付け位置が決まっていないとこのように処理することはできません。
また総巻処理する前にガイドの位置は決めておくことをお勧めいたします。
総巻+コーティング処理が終わった後にガイドを仮止めして位置を決めようとすると、せっかく綺麗に処理できたコーティングの上にガイドの跡がついてしまう可能性があります。
厳密にいえば総巻することで竿は若干硬くはなりますが、調子に大きく影響は及ぼしません。
その為地のブランクにガイドを乗せて糸を通し、ぐいぐい引っ張ってガイドの位置決めをした方がいいと思います。
総巻処理が完成しました。
巻いてない部分はグリップが付くところです。
コーティングに入ります。コーティング剤はガイドのコーティングにも使用するエポキシを使用します。
エポキシは1:1で配合した後、薄め液を添加して粘度を下げた方が塗りやすくなります。
特に最初の1回目は糸にコーティングがしみこみます。
その為配合したエポキシの量の倍ほどの溶剤を入れて粘度を下げます。
また1回目は糸にしみこむ分大量の液が必要となります。
ブランクの長さにもよりますが、配合後の液の量は15~20mlほどは用意した方がいいです。
2回目以降はそれほど液の量は必要なくなります。また溶剤も減らしていっても構いません。
綺麗に処理するコツは「薄塗を何回も重ねる」ことです。
塗った液を筆で拭い取る・・・感じです。
これを繰り返すことで平らな状態で少しずつ厚みをつけていくことができます。
塗りのインターバルは一般的には1日おきですが、数時間で塗ることも可能です。
完全硬化していないうちに重ね塗りしても問題は無いですが、早すぎると塗ってある塗膜が溶けだす可能性もありますので注意してください。
ある程度平らになるには5~7回くらいは塗り重ねます。
その位になるまでは大きくヤスリは掛けない方がいいです。
「一気に厚盛りしてヤスリで平らにした方が早いんじゃないの?」
と思われるかもしれませんが、厚塗りすると凹凸ができやすくなります。
この凹凸を研磨して平らにしていく作業は非常に面倒です。
逆に削りすぎて下地の糸を痛めてしまう場合もあります。
日数的には早いかもしれませんが、時間的には逆にかかってしまう可能性もあります。
糸目が出ないほど平らになり、削ってもよさそうな厚みになったら本格的に研磨して平らにしていきます。
研磨の仕方はまず縦方向にヤスリをかけます。
ティップからバットにかけて全体を処理していきます。
この時表面は艶がなくなりますが、所々艶が残る部分が出てきます。
その部分は研磨されていない部分、つまりへこんでいる個所となります。
この艶がなくなるように研磨することで平らにすることができます。
使用する紙やすりは240番くらいが失敗なくできるかと思います。
私はせっかちな為120番で始めてしまいます。
この方が軽い力で削れるスピードが圧倒的に早くなります。
ただ傷が深くなることとあっという間に削れるため、うっかり糸に達してしまう可能性がありますので慣れないうちはあまりお勧めはしません。
全体を処理できると、縦方向に手を当ててみると平らになっていることがわかると思います。
しかしブランクを握って回してみてください。角が残っていることがわかると思います。
研磨したのは縦方向の為、ちょうど六角の鉛筆のように角が残ってしまっているのです。
これを綺麗な円にするためにブランクを回しながら角を落としていきます。
この作業では紙やすりの番手を倍々(400~800)に上げていき表面を整えていくようにしてください。
表面が平らになったら艶出しの処理をします。こちらではウレタンクリヤーをガン吹きしています。
道具があるようでしたら是非ウレタン処理をお勧めします。
これ以外の方法ですとしごき塗装があります。
昔からよく使われていた方法ですが、一般的な生ゴムを使用したしごき塗装ではブランクが長すぎて処理ができません。
船竿のしごき塗装でよく行われているのは「パンスト」つまり「パンティーストッキング」を使った方法です。
こちらでも以前はパンストで処理していたこともあります。
ただ購入直後のパンストを使用するとハジキが起きやすい為、洗う必要があります。
また本当は使い古しの物がやわらかくていいのですが、周りにいる女性に
「使い古しのパンストください!」
というのはヤバイ人だと思われるでやめました(笑)
変わりの物を色々試してみましたが、最終的に「ティッシュペーパー」でいけることがわかりました。
実際の手順として、エポキシ「主剤:硬化剤:溶剤」を「1:1:2」で20mlで配合した液を作ります。
くしゃくしゃにしたティッシュペーパーを1枚用意して、その液をしみこませます。
誰かにブランクを水平に持っていてもらい、総巻処理されている元の部分にくるっとティッシュを巻きつけます。
そのまま手で握りこんでティップ側へ引き抜いていきます。
この時徐々に力を加えながら抜きます。
当然手はコーティングまみれになりますし、下はコーティングがボタボタ垂れてしまいます。
その為ビニール製の手袋をするのと、新聞紙等で床を保護することを忘れないようにしてください。
うまくいけば綺麗な艶ができます。
ティッシュを使うことでティッシュの粉がついてしまうこともあります。
多少のブツは後でコンパウンドで磨いて消すことが可能です。
またコーティング剤を使用しないで、荒目のコンパウンドから超微粒子のコンパウンドをかけ続けて艶を出す方法もあります。
根気はいりますが失敗の無い確実な方法かと思います。
※画像がなく文章でイメージするのは難しいかもしれません。機会があればしごき塗装の手順も
アップさせていただきます。
ブランクの処理が終わったら今度はグリップです。
後半で説明いたしますが、グリップはベルト巻仕上げにします。
このベルトも下地に影響される為、白く塗装します。
実際はブランクを白で塗装する際に一緒に塗装してしまえば楽です。
今回使用するグリップのパーツです。
上から・・・
アルミサポートパイプ/CL17用
アルミパイプシート/CL17
船竿用バットブランク/20用ホワイト
ストレートグラスパイプ
ウレタングリップ
グラスブッシュ
となります。
まずストレートグラスパイプをブランクに接着します。
これはよくありがちな、フロントグリップが曲がりすぎてしまうのを防ぐための強化サポートパイプです。
肉薄ですが適度に曲りを押さえてくれ、しかも素材が粘りのあるグラス素材の為曲がっても割れてしまうこともありません。
マダイ竿など柔らかい竿ですとグリップからぐいぐい曲がってしまいます。
それが気になる方は是非使用してみてください。
ブランクの根元まで入れたら余分はカットして接着して下さい。
次にフェルールに入れるグラスブッシュの加工です。
これはブランクとフェルールの隙間を埋めるためのアーバーになります。
今回使用するリールシートのフェルールにぴったり合うブッシュが無い為加工が必要になります。
フェルールに入れてみると長い為飛び出てしまう部分をカットします。
ブランクに接着したグラスパイプにブッシュを接着します。
若干の隙間がある為、マスキングテープを1周ほど巻いてぐらつきが無いように調整をしています。
こういったテープでの底上げをする際に中止する点として、下が隠れてしまうように全体をテープで底上げすることはやめてください。
接着剤がブランクにまったくつかなくなってしまい、テープの粘着力だけで保持されることになります。
必ず接着剤が付着する面を残すように処理してください。
接着には2液式のエポキシボンドを使用します。
接着できたら・・・
グラスブッシュとフェルールの隙間を埋めるための底上げをします。
ぴったり合うものが無い為どうしても必要な作業となります。
ここではテープではなく、竿巻き糸で処理をします。
完全に密に巻く必要はなく、写真のように隙間をあけて巻けばOKです。
注意する点として、巻はじめと巻き終わりは糸を巻き込まないようにしてください。
どちらも瞬間接着剤で止めてしまうようにしてください。
巻き込んでしまうとそこが膨らんでしまうので外径が揃わなくなってしまいます。
巻き終えたら全体に瞬間接着剤をしみこませて糸が動かないようにしてしまいます。
糸を底上げに使うなんて・・・と思う人もいるかもしれませんが、昔から行われている「最強の底上げ方法」の一つです。
クリアランスがしっかりできれば、まず外れてしまうことはありません。
底上げができたらエポキシボンドでフェルールを接着します。
次にフロントグリップを接着します。
使用するパーツによってはここでも底上げ作業が必要になる場合があります。
エポキシボンドで接着します。
フェルールとの接合部分に段差ができてしまうとこの後の処理が大変になります。
そういう場合は、テープや糸などを使って段差をなくす処理を事前にしておいてください。
バットブランクを接着します。
少しだけガタツキがある為、マスキングテープで調整して接着します。
バットブランクの上にはこの後ベルト巻をします。
フロントグリップのところでも説明しましたが、巻きつけるベルトが綺麗に発色するように白で塗装されたものを使用した方が効率的です。
リールシート下にアルミサポートパイプを取り付けます。
これはロッドキーパーを強力・かつ安全に取り付けるためのものです。
ベルト巻処理したところに直接キーパーをつけてもいいですが、ベルトが傷みやすくなるためこちらを使用していただいた方がいいと思います。
これも若干の隙間がありますので底上げします。
隙間の大きさとしっかり接着させたいため、細いスレッドを巻きつけて調整しました。
このような感じに接着されます。
バットは好みの長さにカットして使用できます。
今回はこのように数センチカットして長さを調整しています。
今のところリールシート周りはこのように組み立てられました。
いったんグリップから離れ、ガイドの取り付けに移ります。
ガイドはトップガイドからバットガイドに向けて取り付けていくのが基本です。
トップガイドの接着しろには総巻糸が巻かれていません。
こうすると、トップガイドのパイプの径を小さくすることができます。
先端から巻いてしまい、その外径に合うトップガイドを使用しても構いません。
ただ太くなることで、使用したいガイドのリングサイズが使用できなくなる可能性があります。
小さいリングは最大のパイプ径も小さくなります。
そういう場合はこのように糸を巻かない処理をしないと、希望のサイズのガイドが取り付けることができなくなります。
今回はシルバーと青を使います。
使用するのは総巻用として販売されているものですが、ガイドの取り付けにも使用できます。
船竿では比較的ポピュラーに使用されています。
総巻処理の時に事前に巻いてある水色もアクセントになります。
同じ巻き方でバットまで巻いていきます。
グリップにベルト巻き処理をします。
使用するのは・・・
です。
デコレーションストリングは3本を飾りとして使用します。
写真を撮り忘れましたが、巻はじめ部分には両面テープが張り付けてあります。
まず写真のように仮で1周巻きつけます。
そうすると余分な端の部分がどこかわかります。
そこをハサミで綺麗にカットします。
下まで巻きつけたら、上同様いらない部分に印をしてカットして取り付けます。
この時点では両面テープで止まっているだけになります。
フロントグリップの上下は段差になっていて、ちょうどベルトを巻くと面が合うようになっています。
このままだとはがれてしまう可能性があるので「スペーサーテープ」を巻きます。
実はグリップの塗装されていない黒い部分と、ベルトの接合部分は多少の隙間や段差ができています。
この後この部分に「止めの巻き」をします。
その際綺麗に巻くことができる為にもこのようにテープを巻いて平らにしておく必要があります。
必要以上に巻かなくていいので、細く切って巻くようにしています。
リアのバット部分にも同様に処理をします。
サポートパイプよりも若干細くなり段差がある状態です。
リアにはゴム製のバットエンド「BRC-22」を使用します。
エポキシボンドで接着します。
フロントグリップ同様、止めの巻をする部分にスペーサーテープを巻いておくことで、綺麗に処理することができます。
上下の止めの巻きができたところです。
スレッドはガイドを止めるのに使用した総巻用の物と同じです。
こうすることでデザイン的に統一され見栄えもよくなります。
巻きの処理がすべて終わりました。
この後はコーティング作業に入ります。
モーターにセットします。
必ず水平になるようにしてください。
グリップ塗る前の状態です。
1回かけた状態です。
少し色が濃くなったのがわかると思います。
ちなみにベルト部分は下を白に塗っていますが、もし白に塗っていない場合はこのように綺麗な白では発色しません。
この後は上下の止めの部分のみ2~3回コーティングを重ねて厚みを出します。
ベルト部分はつるつるにしてしまうとせっかくの滑り止めの効果がなくなってしまうので、うす塗を1~2回程度で処理することをお勧めいたします。
リア部分も同様に処理します。
ガイドもコーティングします。
3回塗り位で・・・
仕上げます。
この竿にはオリジナルのネームを入れます。
ガイドの最終コーティングでこのガイドとガイドのネームを一気にコーティングをかけて仕上げます。
つるっと綺麗なコーティングをかけるのには多少慣れが必要になります。
コーティングが硬化すればこれで完成です。
いかがでしたでしょうか?
細かな技術的な部分まではなかなかお伝えすることは難しいですが、おおよそ船竿作成の流れはご理解いただけたのではないかと存じます。
竿作りの基本は、巻きの技術とコーティングの技術です。
これはある程度経験によって上達していくものです。
それ以外はさほど器用さは必要ないですし、丁寧に慎重に行えば誰でもできます。
自分で作ればパーツ代だけで済みますが、依頼すれば工賃が発生しますのでその数倍の費用が掛かります。
竿作りは決して特殊な技術が必要なものではありません。
一般の方が趣味のレベルで市販品を超えるクオリティーの物を作ることも可能な世界です。
是非チャレンジしてみてはいかがでしょうか?
次回はカセ・イカダ竿の作り方を紹介する予定です。
是非ご期待を・・・